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コンサルタントと言う言葉を初めて聞いたのは、新卒入社した会社で、とある大きなプロジェクトに参画することになった時。大手コンサルティング会社から派遣されてきたと言う方々にお会いしました。1時間に一人当たり300ドル〜600ドルも請求する(当時)と言う、その人たちと一緒に働いてみて「コンサルタント」と言うもやっとした職業に対して、疑問を感じたことを覚えています。
時代は進み2000年代後半になると、戦略コンサルタントに限らず人事系コンサルタント、財務系コンサルタントのように、コンサルタントと言う肩書が大量に増えました。もともとはその業務や業界についてよく知っているアドバイザーのはずなのに、新卒1年目の社員までが自分のことをコンサルタントと称している。何でもかんでもコンサルタントとつければいいってもんじゃないのに、と矛盾を感じた私は「自分はコンサルタントという肩書きだけは使わない!」と思っていました。(今は自分のことをコンサルタントと呼んでいるけれど)
短期間でこの肩書きがここまで広がったのは「コンサルタント」と言う横書きのタイトルをつけることで、実際にその人がどんな職務を負っているのかというのがあやふやになるとともに、なんとなくかっこいい、そんな理由で多くの人に受け入れられてきたのではないかな、と思います。
そんな中、コンサルタントの役割を再定義する良著に出会いました。『謙虚なコンサルティング』(エドガー・H・シャイン著、英治出版)
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【目次】
監訳者による序文(金井壽宏)
はじめに
1.コンサルタントなのに、どうしたらいいかわからない!
2.謙虚なコンサルティングはどのように新しいのか
3.互いを信頼し、率直に話のできる、レベル2の関係性の必要性
4.謙虚なコンサルティングは最初の会話から始まる
5.パーソナライゼーションーレベル2の関係を深める
6.謙虚なコンサルティングはプロセスに集中する
7.新しいタイプのアダプティブ・ムーヴ
結びの言葉
これからどうすればいいか
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著者のエドガー・H・シャイン先生はマサチューセッツ工科大学の名誉教授であると共に、組織心理学と組織開発の第一人者。学問の道から経営の道へ進まれたシャイン先生は、これまでにもコンサルディングの世界の常識を覆すような影響を与え続けています。そんな先生の最新刊『謙虚なコンサルティング』ではコンサルタントの役割を”本当の支援を速やかに行う”人と定義。
コンサルタントの仕事は、”現状を分析・診断”し、次いで”助言”の名のもとにコンサルタント自身が「話す」と言うスタイルが、一般的なパターンになっています。しかしそれでは本当の問題が見過ごされたり、様々な理由から助言した解決策が実行できないと言うケースが少なくありません。絵に描いた餅を描いてくれるのはいいけれど、本質がややズレていたり、実現不可能な解決策を提示され、数億円をかけてコンサルタントを入れたのに、結局ほとんど変わらなかった、という笑えないけど本当の話は特に2000年代に欧米の金融業界でも聞きました。
こうしたシャイン先生自身の失敗を含む経験から学んだ、新しいコンサルティングモデルの要として「パーソナライゼーション」について本書では冒頭、相当数のページを割いて説明されています。
”謙虚なコンサルティング”と言う新たな役割を担うコンサルタントの、最も重要な目的は「本当の支援」をすること。それはクライアントが、解決策のアイデアや問題解決のための主人公になると言うこと。クライアントが自分たちの力で、本当の懸念や本当の考えを知り理解できるようにすること。コンサルタントはそこに到達するまでの道筋を示す、あるいはクライアントがそこへ向かっているときの「パートナー」兼「支援者」にしかなれません。
クライアントが自分たちの力で今起きている問題の根本原因を付き止めるためには、”謙虚なコンサルタント”による「問いかけ」が必要になります。しかしいきなり本質をつくような質問を投げかけても、クライアントは躊躇するか、時には反発することもあるでしょう。そこで必要なのが「レベル2の関係性」です。
《
レベルごとの関係性
》(本書より抜粋)
レベルネガティブ 1:ネガティブな関係、不当な扱い
心が開かれていないどころか、敵対している
関係
レベル1:認め合うこと、礼儀、取引や専門職としての役割に基づく関係
取引上のお役所的なほどほどの距離を保った関係いわゆるビジネスライクな関係
レベル2:固有の存在として認識する
課題及び目標本位の個人的な関係「パーソナライゼーション」への扉を開くことができる関係
レベル3:深い友情、愛情、親密さ
親密さ、愛着、友情、恋愛感情。これらはいずれもプライベートな関係
”謙虚なコンサルタント”にとって大切なのは、出会ってから早い段階でレベル2の関係性を築くこと。そしてその信頼性をベースに、クライアントへ「本当の支援」を行なっていくこと。本書では25の事例(成功例・失敗例)を紹介、”謙虚なコンサルタント”ならこの時どう行動すべき(だった)か、シャイン先生による解説が続きます。
学者の先生が書かれる本は難解な言葉が使われていることも多いのですが、これら一つひとつの説明は平易なわかりやすい言葉で書かれ、実際の場面を想定した問答ですんなり状況が理解できます。内容はしっかり読み応えがありますが、通勤時間に少しずつ読むのにも向いた構成です。
本書の中でシャイン先生は「”謙虚なコンサルティング”は新たなリーダーシップスキルになる」と明言しています。複雑化した今日のビジネス界では、リーダーたちが社内のあらゆる関係性の人に対し、時に「支援者」になる必要がある。しかし階層上、職務上の壁を超えてコミュニケーションが取られる事はあまり多くない。部署間・階層間の、認識の違いによる対立の場面を経験した人も少なくないのではないでしょうか。
リーダーから率先して他部署・他階層の社員に対して”謙虚なコンサルティング”を行なったとしたらどんな組織になるでしょうか。会社の大小、今の立場に限らず、新たなリーダーとして今後活躍していきたい人にオススメの1冊です。来週半ば頃には、店頭に並びます。